最高裁平成28年3月31日判決・供託金払渡認可義務付等請求事件

最高裁平成28年3月31日判決

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=85809

判タ1425号116頁

「しかし,宅建業法の定める営業保証金の制度は,営業上の取引による債務の支払を担保するための営業保証金を供託させることによって,その取引の相手方を保護すること等を目的とするものである(最高裁昭和36年(オ)第496号同37年10月24日大法廷判決・民集16巻10号2143頁参照)。そして,同法30条2項は,営業保証金の取戻請求ができる場合として,同項本文所定の場合と共に,同項ただし書所定の場合を定めている。同項本文は,宅建業者であった者等が早期に営業保証金を取り戻す利益とその取引の相手方の保護の必要性との調整を図るため,宅建業者であった者等が取戻事由の発生時から10年の経過を待たずして営業保証金の取戻請求をする場合に,6か月以上の公告期間を定めて取戻公告をするよう要求し,さらに,同公告期間内に還付請求権者からの申出がないか,又は,同公告期間内に申出があったが,その申出に係る権利につきその不存在若しくは消滅を書面により証明するか(同条3項の委任に基づく宅地建物取引業者営業保証金規則10条1号,2号参照),いずれかの要件を充足することを求めることにより,取引の相手方に対して還付請求権を行使する機会を確保することを目的とするものと解される。他方,同項ただし書所定の場合に取戻公告をしないで取戻請求ができることとされているのは,取戻事由の発生時から10年を経過した後は,その還付請求権を行使する機会を特に確保するまでの必要性がないことによるものと解される。
 以上のような営業保証金及び取戻公告の制度趣旨等に照らすと,宅建業法30条2項の規定は,取戻請求をするに当たり,同項本文所定の取戻公告をすることを義務的なもの又は原則的なものとする趣旨ではなく,取戻公告をして取戻請求をするか,取戻公告をすることなく同項ただし書所定の期間の経過後に取戻請求をするかの選択を,宅建業者であった者等の自由な判断に委ねる趣旨であると解するのが相当である。
 そうすると,取戻公告をすることなく取戻請求をする場合に,宅建業者であった者等は取戻事由が発生すれば直ちに公告期間を最短の6か月と定めて取戻公告をすることができることを理由として,取戻事由の発生時から6か月を経過した時から取戻請求権の消滅時効が進行すると解することは,上記の選択を宅建業者であった者等の自由な判断に委ねた宅建業法30条2項の趣旨に反するといわざるを得ない(最高裁平成17年(受)第844号同19年4月24日第三小法廷判決・民集61巻3号1073頁,最高裁平成20年(受)第468号同21年1月22日第一小法廷判決・民集63巻1号247頁等参照)。このことは,原審が前提とする上記のような解釈によれば,宅建業者であった者等が取戻公告をすることなく取戻請求をすることとした場合,取戻請求権を行使し得る期間は同項ただし書所定の期間経過後の僅か6か月間に限定され,その取戻請求権の行使につき重大な制約が課され得ることになることからも明らかである。」
「以上によれば,宅建業法30条1項前段所定の取戻事由が発生した場合において,取戻公告がされなかったときは,営業保証金の取戻請求権の消滅時効は,当該取戻事由が発生した時から10年を経過した時から進行するものと解するのが相当である。」