知財高裁平成27年12月24日判決・売買契約の目的物が第三者の特許権を侵害しない事案において,損害填補保証条項に基づく損害賠償請求が認められたが,過失相殺により減額された事案。

知財高裁平成27年12月24日判決
確定

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=85608
判タ1425号146頁

損害填補条項に基づく損害賠償請求が認められた事案。
条項の解釈,具体的な義務の認定,損害との因果関係,過失相殺の判断が争点。

「(2) 本件基本契約18条2項に基づく義務
ア 本件基本契約は,控訴人と被控訴人との間の物品の売買取引に関する基本的事項を定めるものであるところ,18条1項は「被控訴人は,控訴人に納入する物品並びにその製造方法及び使用方法が,第三者の工業所有権,著作権,その他の権利(総称して「知的財産権」という。)を侵害しないことを保証する。」旨,同条2項は「被控訴人は,物品に関して知的財産権侵害を理由として第三者との間で紛争が生じた場合,自己の費用と責任においてこれを解決し,または控訴人に協力し,控訴人に一切迷惑をかけないものとする。万一控訴人に損害が生じた場合,被控訴人はその損害を賠償する。」旨規定する。そして,本件基本契約には,他に知的財産権侵害を理由とする第三者との間の紛争に対する解決手段・解決方法等についての具体的な定めがないことからすれば,同条2項は,同条1項により,被控訴人は,控訴人に対し,その納品した物品に関しては第三者の知的財産権を侵害しないことを保証することを前提としつつ,第三者が有する知的財産権の侵害が問題となった場合の,被控訴人がとるべき包括的な義務を規定したものと解するのが相当である。」
「同項は,被控訴人がとるべき包括的な義務を定めたものであって,被控訴人が負う具体的な義務の内容は,当該第三者による侵害の主張の態様やその内容,控訴人との協議等の具体的事情により定まるものと解するのが相当である。」

「(3) 本件基本契約18条2項に基づく被控訴人の具体的義務について
ア 前記のとおり,控訴人はWi-LAN社から,本件各特許権のライセンスの申出を受けていたこと(前記前提事実等(8)及び前記(1)イ。なお,Wi-LAN社のライセンスの申出が,本件チップセットあるいは本件製品を問題としていたのか,控訴人のサービスを問題としていたのかは,証拠上,明らかでない。),控訴人は,被控訴人に対し協力を依頼した当初から,本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否かについての回答を求めていたこと(前記(1)ア),被控訴人,控訴人及びイカノス社の間において,ライセンス料,その算定根拠等の検討が必要であることが確認され,イカノス社において,必要な情報を提示する旨を回答していたこと(前記(1)タ)に鑑みれば,被控訴人は,本件基本契約18条2項に基づく具体的な義務として,①控訴人においてWi-LAN社との間でライセンス契約を締結することが必要か否かを判断するため,本件各特許の技術分析を行い,本件各特許の有効性,本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否か等についての見解を,裏付けとなる資料と共に提示し,また,②控訴人においてWi-LAN社とライセンス契約を締結する場合に備えて,合理的なライセンス料を算定するために必要な資料等を収集,提供しなければならない義務を負っていたものと認めるのが相当である。」

「(1) 被控訴人による本件基本契約18条2項違反と控訴人がWi-LAN社に支払ったライセンス料2億円相当額の損害との間の相当因果関係の成否」
「(オ) 以上のとおり,前記(ア)のとおりのチップ・ベンダーであるイカノス社による技術分析への対応等に照らせば,控訴人が,本件チップセットは,ADSL Annex.Cに準拠し,Annex.Cに用いるものとしてFRAND宣言がされている本件各特許権を侵害する又は侵害する可能性が高いと考えたこともある程度やむを得ないところであって,前記(イ)のとおり,被控訴人又はイカノス社からライセンス料の算定に関する情報も提供されないことから,前記(ウ)のとおり,これ以上,減額交渉の材料がない状況の下で,他方,前記(エ)のとおり,Wi-LAN社からは,早期ライセンスのオファーが終了すれば,次のステージに移行する可能性を継続して告げられるなどして,差止請求訴訟を提起されるリスクを負っており,侵害が認定された場合に被る損害は2億円をはるかに超えることが予想されたことを総合的に鑑みれば,平成24年2月23日の時点において,控訴人が,本件ライセンス契約を締結し,ライセンス料2億円を支払うことも,社会通念上やむを得ないところであり,不相当な行為ということはできないのであって,被控訴人による本件基本契約18条2項違反と,控訴人のライセンス料2億円相当額の損害との間には,相当因果関係を認めることができる。」

「(2) 過失相殺」
「控訴人は,未だWi-LAN社による違反調査等が行われる第2ラウンドに移行しておらず,直ちに差止請求を含む訴訟提起がされる危険性があるとはいえない状況において,Wi-LAN社からは,本件チップセットが本件各特許権を侵害していることについて,技術分析の結果等の客観的資料に基づく具
体的根拠が示されているわけではなく,控訴人において,本件チップセットの構成・動作と本件各特許発明の各構成要件を逐一吟味した資料等に基づいて,その充足性を検討することなく,イカノス社による技術分析への対応等から本件チップセットが本件各特許権を侵害する又は侵害する可能性が高いと考え,算定根拠が明らかではないWi-LAN社のライセンス料の提示に対して,その内容を質すこともなく,また,本件ライセンス契約直前にされた被控訴人による制止を顧慮することなく,本件ライセンス契約を締結し,ライセンス料2億円を支払ったことになる。この点については,拙速との評価を免れず,控訴人にも,損害の発生について,過失があるといわざるを得ない。」